2012(平成23)年4月1日から2013(平成24)年3月31日
特定非営利活動法人
文化の多様性を支える技術ネットワーク
2012年度は、早稲田大学・オープン教育センター・ユネスコ カレッジ(ユネスコと早稲田大学との包括協力協定にもとづく「ユネスコの文化技術活動への参加(2001年4月開設)」、早稲田大学・波動コミュニケーション研究所、同大・1ビット オーディオ研究会、サイバー大学・世界遺産学部、人間文化研究機構・音声資料チーム、早稲田大学・移民・エスニック文化研究所、UCLA Asian American Studies Centerと連携・協力のもと、下記の調査研究、技術開発、実証実験等を行った。
- 事業の成果
悠久の人類の歴史においての遺された有形・無形の文化遺産は、人類共通の財産であり、これらの未来への継承は現世に生きる我々の使命である。しかし、有形遺産にあっては、時の流れによる劣化、環境の変動による崩壊、民族紛争等による人為的破壊、無形文化遺産にあっては、時代の趨勢、国際的グローバリゼーションに伴う古来の民族言語の喪失等により、消滅の危機に瀕している。これに対して、ユネスコでは、有形・無形の文化遺産を保存・修復、継承活動を進めている。
これらの動きに呼応して、本会では、デジタル技術、コンピュータ、高度映像・音響技術等、現代の先端技術を駆使することにより、多様な有形・無形の文化遺産環境情報を蓄積・保存して、鑑賞や研究・教育に供する上で、より高度なシステムを構築するため事業を行った。その中で2012年度事業として特筆すべきは、UCLA図書館所蔵の北米日系人関連音声資料、文化的資源の電子化によるデジタルアーカイビング化を試み、将来に向けてのインターネット発信による公開事業への道を拓いた意義は認められよう。
(1)文化財のあるがまま記録・伝送の実験とネットワークを使った文化遺産の紹介
(調査研究、技術支援、普及啓発)
イ) サイバー大学・世界遺産学部に協力し、本年度は、フランス東部(ランス、ナンシー、ストラスブール)、ドイツ西部(ハイデルベルグ、トリア、ライン渓谷、ケルン、アーヘン)、ベルギー(ブルッセル、ルーヴェン、ブルージュ自由都市の鐘楼、サルトル運河)の世界遺産の現地調査と映像の取材・編集を行い、世界遺産の学術研修に供する教育素材を作成、過去の分と合わせ、さらなる充実に努めた。 (2012・8月)
(2)私蔵及び埋蔵文化財の再生・公開のための運用実験
(研究開発及び技術支援、国際協力の推進)
イ) コロムビア ミュージック エンタテイメント(株)より、同社が長年所蔵し、埋蔵化している多種・多様な音源ソフト(レコード及びマスターテープなど数万点)の提供を受け、先ず、これら貴重な音文化財であるレコード(約400点)をリストアップし、内容をできる限り音盤に影響を与えずに、かつ、音を漏らさず高速で保存する方法の追求と一般的な方法で再生保存した音と非接触・非破壊かつ高速で保存した音との比較・評価を課題とした研究に取り組んだ。
具体的には、スキャナーによる全面読取と高速度カメラでの写真測量を試み、さらに目的に向けた探求と手持ち音源の抽出・再生を目指した作業を継続・実施した。
ロ) 日本‐ブラジル移民100周年記念事業の一環として、南米ブラジル日本移民史料館から依頼を受けた1000点以上のレコードと貴重なフィルム類の中、主に音関係の資料44点の目録を整備し、これら原資料(レコード盤)を非破壊・非接触技術による読み取り手法を用いて、デジタルアーカイブの構築をすすめた。
また、この事業の成果を「トランスナショナルな日系人の教育・言語・文化―過去から未来に向かって―(2013年6月)」として出版した。
ロ) 早稲田大学・IT研究機構「波動コミュニケーション研究所」設立に伴い、「学問の活用による文化の多様性への貢献」と銘して、多様な文明の共存を支える音響コミュニケーションの確立を目指した事業、即ち、私蔵・埋蔵文化財の再生と閲覧を可能とするシステムを構築し、運用を開始した。
ハ) UCLA図書館所蔵のJARP(Japanese American Research Project) コレクション・「日本関連在外資料調査研究:近現代における日本人移民とその環境に関する在外資料の調査研究」音声資料・327本のオーラルヒストリーテープの復元再生を目指し、人間文化研究機構、早稲田大学移民・エスニック文化研究所、UCLA Young Research Library、UCLA Asian American Studies Centerと連携のもと、資料29本のオープンリールテープの綿密な調査と高速デジタル化を試みた。その結果、音質劣化のため聞き取り不可能と看做されていたテープの殆どは、適切な方法と機材を用いることにより聞き取り可能と判明した。本研究により、「埋もれた過去」となりつつあった資料が、音響学の専門的知見や技術を活用することにより蘇生されることが明らかになり、文化的資源を電子化して保存するアーカイビング化を促し、インターネットを通じた公開が容易となり、世界各地に「私蔵・死蔵」されている日本人移民・日系人の生の声を次世代の研究に繋げていく道を開くものとしての意義が認められよう。 (2013年3月)
(3)講演会等の開催
(普及啓発、情報収集と提供)
イ) テーマ:「次の災害に備えて」
東日本大震災を契機として ―災害を軽減化する宇宙技術の役割―
講 師: 坂田 俊文氏 東海大学 教授、本NPO法人会長
期 日: 平成23年7月2日(土)
場 所: 早稲田大学 西早稲田キャンパス55号S館710室
ロ) Ustream ユネスコ カレッジ公開講座:文化活動(文明・文化の多様性と対話)
テーマ:「若者よ、アメリカだけが世界ではない」
講 師:磯村 尚徳氏 (元NHK報道局長、元パリ日本文化会館館長、本NPO法人顧問)
期 日 2012年12月4日(火)
場 所:早稲田大学26号館・多目的教室
参加者:100名
*本講座は、Ustream を通じて中継し、広く公開した。